詰めもの料理と詰まった料理

詰めもの料理や詰まった食べもの日々研究・探究の記録です

【詰まった羊羹】ラテックスに詰める

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 羊羹の詰まったゴム風船がある。
 ピンポン球くらいの大きさ。ぱんぱんに詰まった羊羹が、半透明のゴムごしに見える。
 食べるには、楊枝一本用意あればいい。
 ゴム風船の口をつまんで楊枝で刺すとゴムが一瞬にして剥け、剥けたゴムは口の部分にまとまり楊枝の先には羊羹だけが残るしくみ。破裂音や衝撃は無く、静かにまるっと羊羹があらわれた。

 なぜ羊羹はゴム風船に詰まったのか。
 ゴム風船入り羊羹=玉羊羹(たまようかん)の元祖は、福島県にある和菓子店『玉嶋屋』。昭和12年、知事や軍から慰問用羊羹の要請を受け店主が開発とウェブサイトにある。戦地において、固くならず一個づつ簡単に食べることができる玉羊羹は重宝されただろう。戦後、ゴム風船入り羊羹は「りんご玉羊羹」「まりも羊羹」などの特産品となり、全国各地に広がった。

 ゴム風船に詰めた食品は今や羊羹だけではない。プリンやアイスクリームもゴム風船に充填されている。
 プリンは羊羹同様楊枝で開封、やわらかいので皿で受けてから食す。アイスクリームはゴムの先端部分が乳首状に残っているので、そこを切って吸って食すスタイル、ゴムの伸縮性のおかげで指で押さなくても自然と口の中に入ってくる。

 ゴム容器メーカー、不二ラテックスのウェブサイトを見るとゴム容器は“-40℃~120℃まで、広い温度耐性。伸縮性・柔軟性があるので、一つの包材で中身の充填量が変えられます。”
とある。この条件ならばサラミやパテも充填されていそうだが、不思議と見つからない。肉製品と相性が悪いのか?
 不二ラテックスに問い合わせてみた。
「残念ながら、ゴム、油脂に弱いんですよ」
肉や魚など脂質が多い食品を使用すると耐久性が悪くなるという。
「使用したいという問い合わせ多いんですけどね」
実際に商品化された例は無いそうだ。
 不二ラテックス、じつはゴム容器では後発メーカーだという。戦中戦後は屋台の水風船を作る小さなメーカーが主な製造元だった。高度成長期に量産する店舗が増え、生産力と安定供給を武器に参入する。
「主力商品のコンドームの技術、耐久性や安全面で徐々に信頼をいただいています」
コンドームといえば、漏れない・破れないがマスト。安心安全が必須な医療分野と食品分野のタッグで、食品用ゴム容器ができあがった。

 冒頭の写真は、不二ラテックス社製ゴム容器を使って手作りした「玉羊羹」。以下のようなゴム容器試作セットを取り寄せて作った。

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 左下の注射器(シリンジ)状のものに液体もしくはゲル状の食品を詰め、ゴム容器に押し出し充填されたところを右下ピンク色のクリップで挟み込み中央のクリップ留め器?で密封する。
 作ったのは、羊羹のほか寒天ゼリー、マンゴープリン、茶碗蒸し。以下ラインナップ。

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 羊羹はこし餡に寒天を煮とかして緩く固まったところで充填、寒天ゼリーやマンゴープリンもその要領で作った。茶碗蒸しのみ液体のまま充填、蒸し器で蒸して仕上げた。茶碗蒸しに具が無いとさみしいので、みじん切りにした人参を加えている。微塵切りにしないと注射器状の充填機の口穴を通らなかったのだが、先にゴム容器に具をいれておいてあとから卵液を注入でもよかった気がする。

f:id:junko31to:20131005154531j:plain キットのゴム容器は、先端に乳首状の突起がついているものとついていないものの2種類あった。上の茶碗蒸しは乳首ありのものを使用、玉羊羹は乳首なしを使用している。耐熱温度などは同じなので用途ごとに使い分けるといいのだろう。

 実際作ってみたところ、液体状だと注ぎ口から漏れやすいので注入し難かったり、ゴム容器が注入中に抜けないようしっかり押さえなければならなかったりとそれなりにコツがいる。楊枝を刺したとき市販の玉羊羹のように気持ちよく容器が割れるようにするには、詰める量や羊羹の固さなどポイントがあるようだ。
 市販品のような完成度のものは作れなかったが、詰めもの料理研究家という肩書きをもつ者として、羊羹やゼリーが詰まっていくさま詰める作業に関われる喜びを存分に味わうことができた。
 
未使用のゴム容器が80個以上あるので、アイスクリームなど乳首を活かした製品にも今後チャレンジするつもりだ。あと肉を使ったものも作りたい。油脂分にどこまで耐えられるのか気になる。

 理科の実験のように楽しみながら作ることができるが、口に入るものなので、衛生面には気をつけたい。わたしは飲食店などで使用している食品添加物扱いのアルコール消毒剤を機器に吹き付けゴム手袋をつけて作業した。

 不二ラテックス社のサイトによると、メッセージやマークなどを印刷したゴム容器も作ってくれるようだ。イベントなどに手作り玉羊羹やおっぱいアイスを仕込むのもいいかもしれない。